受託制作における大きいデザインと小さいデザイン、デザインで解決できることとは?

  • UIデザイン
  • サービスデザイン

先日、“RIDE” UX Sketch SUMMER 2016 〜リアルな現場のUXがビジネスに必要だ!〜 というイベントに参加してきた。

UXということばがついているので、拒否反応が出る人は出るかもしれない。
わたしは途中までしか参加できなかったけど、内容は「大きいデザイン」の話だった。

大きいデザインと小さいデザイン

最近は、わたしも大きいデザインに携わることが多くなってきてやっとわかってきた。世の中には、大きいデザインと小さいデザインがあることが。
なにが大きくてなにが小さいのかは、厳密な定義はないし人によってちがうとおもうのと、そんなに重要ではないので特に言及しませんが、大きくわけるとそういうふたつの考え方があるということ。

ベタですが、建築でいうと、

  • 大きいデザイン:設計
  • 小さいデザイン:実際の施工

といったイメージです。

big_small_icatch

大きいデザインとは

大きいデザインは、「人」と「もの、こと」が結びつくのを実現するために、どういうふうにしたらよいかを設計することだと考えています。

ひとつのサービスを展開するうえでも、いろいろなチャネルが必要です。
よくあるのは

  • Webサイト(LP、紹介サイト)→告知、紹介用
  • Webアプリ(フロント)→ユーザーがログインしてつかうもの
  • Webアプリ(バックヤード)→システム管理者がログインしてつかうもの
  • ネイティブアプリ(iOS/Android)→ユーザーがスマホでつかうもの

などなど。

どういう登場人物がいて、その人たちがどういう機能をつかうかを仮説立てし、その人たちにあうように必要な機能を設計していく。

もっと大きなくくりでいうと、その登場人物たちがどういうサービスを欲しているかというところをリサーチ・分析して、それによってお金がどう動くのか、それぞれの登場人物たちにどういうメリット・デメリットがあるのかなどを判断し、必要なチャネルにおとしこんでいく。

世間では「UXデザイナー」などと呼ばれていることが多い、大きいデザイン。

また、そういったサービスをまとめるだけではなく、ある種の空間デザインのコンセプトメイキングなども含めてやっている方もいる。
「もの、こと」と接することによって「人」がどう変わるかをデザインすること、それが大きいデザイン。

小さいデザインとは

小さいデザインは、大きいデザインから落とし込まれたチャネルに沿って、それらを実際に形に起こすことだと考えています。
グラフィックデザインであったり、Webデザインであったり、アプリデザインであったり。UIデザインもここに入ると考えています。

もっと小さくいうと、各画面における動きがどういうものが最適かを考えるインタラクションデザインとかも小さいデザイン。

空間デザインが入ってくると、インテリアデザイン、エクステリアデザイン、実際の施工なども小さいデザイン。
大工さんの仕事も、図面にしたがってものをつくっていくので、小さいデザイン。

受託制作における大きいデザインの理解

スタートアップ企業など、サービスを運営していてインハウスで制作をしているところでは、大きいデザインを制作者全員が理解し、納得して、それに沿った小さいデザインを進めていくことになっていると思います。

しかし、それが受託制作になると、大きいデザインが小さいデザインの現場になかなかおりてこないこともよくある。

たとえば、LPのWebデザインを頼まれる。なんとなくワイヤーはひかれているし、原稿も決まっている。しかし、それがなんのサービスのLPなのかは実はよくわからない状態のままでデザインを進めなければならない人もたくさんいるのではないだろうか。

わたしたちは、そういった根本を理解しないではデザインはできないと思っているので、小さいデザインの専門家ではあるけど、大きいデザインもちゃんと意識するようにしている。
というか、意識するというよりも、その内容がわからなかったらどんどん聞く、というスタンスでいる。

なぜ大きいデザインの理解が小さいデザイナーたちにも必要かというと、大きいデザインを小さいデザイナーなりに理解すると、思いもよらぬデザインの表現が出てくる可能性があるからです。
これは小さいデザイナーの手腕にもよってくるのですが、すばらしい小さいデザイナーは、大きいデザインの話を聞くと、即座にどのような表現があっているかを考え始めます。
この表現は、実はデザイナーによって十人十色。みんなそれぞれの感性が働きます。

大きいデザインの粒度が精密であればあるほど、出てくるデザインも似通ったものになるはずですが、デザイナーさんの個性や感性にまかせたい場合は、大きいデザインの粒度にあえて振れ幅を持たせておいたほうが、思いもよらない発想にめぐりあえる機会は増えます。

しかしそれをするには、依頼主は小さいデザイナーの個性や感性をすでに知っていて、「この人におまかせ」という絶対的な信頼がないとむずかしいとは思いますが。。

つかう脳みそがまったくちがう、大きいデザインと小さいデザイン

この大きいデザインと小さいデザインですが、どちらに優劣があるわけではない。
ただ、大きいデザインがうまく決まっていないと、小さいデザインが進まないという主従関係は存在します。

また、必要な知識も、つかう脳みそもまったく別ものです。

大きいデザインに必要な知識は、

  • リサーチ・分析
  • マーケティング、心理学
  • ビジネスの考え方、お金の動き

ほかにもたぶんたくさんありますが、日本でデザイナーといわれているような「おえかきができる人」という認識ではまったくありません。
むしろ経営やビジネス、マーケティングやリサーチに詳しい人のほうが向いています。

小さいデザインに必要な知識は、

  • グラフィックデザイン
  • エディトリアルデザイン
  • イラストレーション
  • UIデザイン
  • HTML、CSS、js

などなど、実際に手を動かしてかたちに起こせるかどうかが重要になってきます。

大きいデザイン→UXデザイナー、小さいデザイン→UIデザイナーとして考えると、「UX/UIデザイナー」とまとめられているのをみると、やっぱり違和感です。
これぜんぶできる人が必要なの?と。

上記の項目のすべてにおいて専門知識をもっている人は、たぶん、そうそういないとおもう。
たとえば、マーケティングについては専門家、その他についても口を出すことはできるけど、自分でかたちにできない人のほうが多い。

大きいデザインと小さいデザインの間の溝

さいきんまわりからよく聞く話で、この大きいデザインと小さいデザインの間の溝がうまく埋められない、ということがある。

さきほどの話でいくと、大きいデザインはある種の概念を決めるフェーズ。小さいデザインはそれらを実際にかたちにしていくフェーズ。
それぞれのフェーズでつかう脳みそもちがうため、大きいデザインと小さいデザインでまったくチームメンバーが異なる場合が多い。
そうなると、大きいデザインフェーズで決めたものを、小さいデザイナーたちにうまく伝達して落としこむことができないのだ。
しかも、大きいデザインを考える人たちと小さいデザインを考える人たちでは、つかう脳みそがちがうため、共通言語もちがえばその上にある思想もちがう。背景の文化がちがうので、まるで異国人と話しているかのようになってしまう。

ここの中間のつなぎには、やはり両方の知識をもっているつなぎの役割が必要です。
このつなぎの人は、大きいデザインの話も小さいデザインの話もあるていどちゃんと咀嚼することができて、自分のことばに落としこむことができ、翻訳して伝達することができないといけない。

さらには、いちどだけの翻訳・伝達だけではなく、それを何度も繰り返すことも重要です。
いちど大きいデザインから小さいデザインへ、かたちに起こしたものを再度大きいデザイン側に戻して、いろいろな観点からフィードバックする。
そのフィードバックをもとに小さいデザイナーたちでより良いものにしていく。ぐるぐるまわす。

しかし、つなぎ役だけで1人アサインするのは、受託制作ではなかなかむずかしいのも現状です。

わたしは小さいデザイナーの代表だと自分で思っているので、できるだけ大きいデザイナーたちとも話ができるように、できるだけ首をつっこむようにしている
大きいデザインの話(サービスの概念のようなもの)があるていどわかれば、それをかたちにしていくフェーズでの指標がより明確になり、デザインする際の材料も増えるので、実際には依頼主の人に喜んでもらえることが多くなった

これは、わたしのなかでけっこう大きな変革だった。
今まではひきこもってひとりで小さいデザインをしていくことが好きだったのが、大きいデザイナーの人たちからいろいろと話を聞きながら、それらを整理してかたちにしていくことが好きになってきた。

デザインで解決できることとは?

ちょっと大きな問いだが、最近はデザインでなにが解決できるのか?ということをよく考えている。
わたしのいまの仕事はUIデザインが多いので、エンジニアさんがつくったシステムに息を吹き込んで、よりユーザーが使いやすいものにしあげる、ということをやっている。
これにはもちろん大きいデザインがどういうものか、ということも必要だが、やっていることは小さいデザインだ。
単なるUIの改善にすぎない。
UIの改善で、使い勝手が劇的によくなってユーザー数が増える、というのは「デザインで解決できること」の立派な例だ。

しかし、大きいデザインで解決できることってなんだろう。
大きいデザインとは、そのサービス概念の根本にあるものである。

先日教えてもらったTEDの動画がとても印象的だった。

ジョー・ゲビア: Airbnbの成功の裏にある信頼のためのデザイン | TED Talk Subtitles and Transcript | TED.com

big_small_ted

これは、大きいデザインで解決できることの例。(動画では、それを信じる力、みたいなところもフォーカスされていますが)

自分にできること

デザインで解決できることはたくさんあります。
アプリなどをつくって世の中を改善しよう、というスタートアップの風潮。新しいサービスがどんどん立ち上がっていく。

自分にできることは?と考えると、けっこう限られている。
個人的にはいろんな分野に踏み出していきたいけど、専門家としてやっていけることには限度があると思っている。
わたしは10種類の専門家です、みたいなこといわれても、正直説得力はないw

上のTEDの動画のように、大きなデザインで解決できそうなことを見つけてやってみたいなとおもういっぽう、いや自分は小さいデザインの専門家なので、と思うところもどこかしらある。
大きいデザインも理解している小さいデザイナー

大きいデザインで問題を解決しようとチャレンジしている方も世の中にたくさんいるので、そういう人たちを自分の特技を活かしてお手伝いできたら、とおもう。

なんかうまくまとまらなかったけど、ツクロアでは小さいデザイナーも募集しています。
ぜひぜひ。

 

SNSでこの記事をシェア

Akiba Chihiro
Akiba Chihiro @tommmmy
デザインを理論的に考えるということを、情報整理から、ユーザーの操作性から、プログラムから、いろんな視点で見ていきます。

メンバー募集中

デザインラボ・ツクロアを読んで、一緒に仕事をしたいと思ってくれた方、こちらもご覧ください。

採用情報

私たちについて

このメディアを発信しているツクロアというチームのこだわりや仕事への取り組みをご紹介します!

ツクロアについて

DESIGN LAB トップ

ページトップ