受動的なコンペ
コンペ…私は苦手だ。
コンペに参加する事自体を否定しているわけではなく、コンペに勝つチカラを持つ人や組織はすごいと思う。
ただ、何度か過去にそれを経験してみて、自分が将来この道で進もうとするには絶望ばかり感じていた。
その時の図式はいつも
大手広告代理店(元請け) → プロモーション会社(実質中心となり動く) → 私(当時フリーランス)
とプロモーション会社が中心となって、それぞれの得意分野を持つ社内外問わないメンバーでチームをつくることが多い。
指示通りの仕事のやり方でダメになった
過去、言われたとおりにしか作業ができなかった私はプロモーション会社と話し合った画面をPhotoshopで起こして提出するだけのいわゆるオペレーター的存在だった。
なんとなく、画面を起こすオペレーターとしての腕に自信があったが、プロモーション会社との打ち合わせはどうも対人関係がうまくいかず、弱い立場に成り下がらずを得なかった、まあその程度のチカラしか持ち合わせていなかっただけに受動的な働き方は指示を待つという姿勢に陥りやすい。
今思うと完全に自分の責任であって、向き合おうとしない心の弱さだったと思っている。
あるディレクターがコーディング済みのプレゼン用デモサイトのスクリーンショットを撮って、デザインカンプとそれとをPhotoshop上で半透明状態で重ねて、数pxものズレがないかを確認しているようだったが、あえて何をしているのかと聞くと「クオリティチェック」だという。
数pxものズレを直すことで得られるクオリティってなんだろう?こんなことをして何の意味があるのだ?とは口に出しては言わなかったがクオリティに対して色々な理由を付けたがるような風潮を感じた。
右へならへの風潮では、意味がないと思える作業も何も反論できずに夜を徹して行わなければならないこともあり、数ピクセルのズレは環境によって当たり前に起こる「Webデザインの文化」に対して許容できる「しきい値」のようなものを知らない一部の代理店担当者は彼らなりの業界標準ルールがあるようだ。
「デバイスフォントがしょぼいからプレゼンのときは画像文字で見栄え良くして、プレゼンが通ったときにデバイスフォントで実装したらいいんですよ、まずはコンペに勝つことが目的なんです」というメンバーもいたり、まあコンセプト画であればそれでもイメージが伝わって良いかもしれないが、実際の画面のデザインだとだいぶ印象が変わるなと感じる部分はなかなかこちらの言い分が通らない。というより私の論点のほうがズレているんだろう。
結局はこういったチームの正しいマインドとは、コンペに勝つことが最大の目的なんだろう、それは正しいのかもしれない。
力関係も様々で、受動的な対応を続ければ続けるほど、相手の声が大きくなってくると同時に力関係を感じだす。
何度か強い口調で強引なスケジュールを求めるプロモーション会社の担当もいた。どう考えても徹夜ではないか、というスケジュール。
それって私は思う、メンバー全員が「コンペに勝つことを一番大事にしている」という人でないと、コンペにとってのいい仕事をやり通すことは一生無理なのではないか?
そのときに思った、きっと私には向いていないのだろう、他のやり方や働き方があるんじゃないかと。
非難しているわけではない、働き方にも価値観の違いは人によって大きく違うということ。
戦略や企画からコンペに依存する発注側のリスク
コンペの中には、製品を開発した企業がそのプロモーションのためのアイデアから全て他社に任せっきりになることもある。
複数の参加社から出てくる案の中からどれか良いと思ったものを採用しようとする従来型のコンペだと、事業者と参加社が何度も戦略について議論を繰り返すプロセスが少ないことがある。
もしもコンペを考えている企業は安易に複数案のどれかを採用するのではなく、その先の議論を繰り返す時間や労力を割く必要性を理解するべきじゃないだろうか?
商品戦略を一番最初から時間をかけて考えているのは発注側のはずで、ハウスエージェンシーでもないのに限られた時間のなかでその企業や商品の考えをコンペ発注要項だけで理解するのは難しい場面も多く、発注が決まった後でも何度も戦略を練っていくお互いの時間が必要になってきているのは色々な新規事業のお客様に触れて感じることがある。
発注側も受注側も合わせてそういった認識を持てばいいコンペになることがあるかも。
最近ありがたく思うこと
ここで書くのもどうかと思われるが、最近本当に私たちと一緒に何かをやりたいと言ってくださるお客様がありがたい。
「仕事を依頼する」というより「一緒に何かをする」というニュアンスだ。
先日、名古屋で開催された「第49回 日本薬剤師会学術大会」という医療系のカンファレンスに行ってきた。
弊社があるプロジェクトで深く関わらせていただいている東日本メディコム株式会社さんがその学会でブースを出展するので他競合や業界全体の勉強も兼ねるという目的だった。
イベント後日、副部長からSlackのメッセージだけでなく電話までいただき「大盛況、大成功です、本当にありがとうございました。御社のご協力がなかったら…かくかくしかじか」とご連絡をいただき、素直にうれしかった。
過去のコンペ参加の代理店との付き合い方とは天と地ほどの差で、そういう意味では今は充実している。
同社の副部長は「請負とおっしゃいました?ひとつだけ間違ってますよ、このプロジェクトは御社との共創ですよ」と言ってくれる(もちろん飲みの席ですが…)、かっこいい人です。
今では色々な意見を真正面から言い合える相手にはこちらも遠慮なく意見を言う、そこに上も下もない、過去の自分のように言われたとおりにしかやらない関係しか築けないとその一歩先が踏めないことが多かった。
今では医療系だけでなく農業や金融ベンチャーの方とお仕事をご一緒する中で、自分からその業界にちょっとでも触れてみたいという意欲がわき、農家にお邪魔して写真や動画を撮ったりスタッフの方に話をうかがったりする、実はデザインをする上でこのプロセスが今、一番大事だと感じている。
普通は自社のコンテンツは自社の実績としたいところ。受託案件を実績として公にすること自体禁止されていることがほとんどだ。
でも、きっと共創をベースにしたお付き合いであれば、医療業界について触れていこうとか意欲が出てくる。
そんなお付き合いがもっとできないものかを模索している。
まとめになっていないが、私みたいなタイプはコンペに勝つことに喜びを感じられないのでそもそもコンペには向かない。
その反面コンペに参加するのであればクリエイティブも大事だが、勝つことに対しては貪欲になったほうがいいのではないだろうか?でないと苦しむだけな気がする。