ツルの一声と経営理念
- コミュニケーション
要件通りにつくったにもかかわらず「ツルの一声」で全部やり直し、なんて多くのデザイナーが経験しているのではないでしょうか?
私の業務に、デザインをリニューアルしたいというお客様のチームにおけるミーティングのファシリテーター(進行役)があります。
お客様の会社やサービスの規模も様々で、ありがたいことに最近では組織のトップの方(つまり社長さん)とも会話をさせていただくことがちょっとずつではありますが、増えてきました。
そういった経験をさせていただく中で、デザインと経営理念が密接…とまでは言わずとも遠くで紐付いているような関係があることを感じて、意外とそこが見落とされ、方向性がなかなか定まらないプロジェクトやチームもあるのでは?なんて。
デザイナーさんに経営なんて堅い話のように思えるかもしれませんが、実は全然そんなことはなく、一つのデザインの指標を決めるためにも、私がクライアントの上司の方にお願いしていること、そして従業員の方にお願いしていること、さらに弊社側でやるべきことを大体決めています。
ツクロアのデザインラボ、今月の私のターンでは「全部やりなおし・修正・どんでん返し」についてあくまで前向きに、双方の気持ちから問題への向き合い方について考えたことを書いてみました。
【読んでくださっている方へ一言ご注意】
決してこれが答えというわけではなく、こういう考え方も良かったら参考にしていただき「ツルの一声」でストレスを感じて毎日を過ごしている方へのちょっとしたヒントになったら、と思っています。
ツルの一声はなぜ起こる?
よくこういった「ツルの一声」というのは、プロジェクトに関わる人全ての向き合い方で起こることが多いかと考えています。例えば以下のような不満爆発の例。
- デザイナー/制作者 … 言われた通りにやったじゃないか。なんでちゃんとまとめられないんだよ。
- ディレクター … お客様がそういうから仕方ないんですよ。
- 発注担当者 … 上司にこの案でいいって言われたんですよ、なのにツルの一声で…。
- 社長/役員/担当者の上司 … あの担当者はこのプロジェクトをどうしたいと思っているんだ?
残念ながら上記4人とも欠けている部分があると私なりに考え、こういうことではないかと考えています。
- デザイナー/制作者 … コンセプトを理解できているか?それを形にするのが仕事で、指示に従うのが目的ではない。
- ディレクター … 発注者の指示から自分のつくりたいイメージを描きディスカッションしたか?伝言が仕事ではない。
- 発注担当者 … 会社やプロジェクトの方向性がイメージができているか?
- 社長/役員/担当者など上司 … 迷ったときの指標となる企業理念や事業ポリシーを社員全員に共有しているか?
たしかに「ツルの一声」というのは上司の気まぐれやワガママという意見が多いかもしれませんが、冷静に考えてみると上司はもっと多くの責任を背負っているため、ポンと出されただけのラフ案に対して右から左へOKすることはないでしょう。
上司だって「気まぐれ」ではなく「試行錯誤」をしたいだけなのかもしれないのですが、その方法がわからない…なので効率よく試行錯誤のサイクルを回すための方法を決めることが急務なのかもしれません。
どうする!?試行錯誤
「仕上がりを見てみないとわからない」という上司の大半は「仕上がりが多すぎて決めきれなくなった」という苦い経験が過去の自分にはあります。
コンセプトがまとまっていないのにデザインラフなどが一気に上がってくることは無意味なことが多く効率が悪いです。
そういう指示に従っていると「そのうちの1案を捨て案で(これ以上いい案が考えきれなくて)」になりがちなので時間の無駄だったり。上司や経営者の方は気付かないことがありますが、見せられた案が実は捨て案だったりすることがあります。
(捨て案を入れないと頭数揃わないから、という後ろ向きな理由です)
「捨て案が意外によかった」ということもあるかもしれませんが、バスケットボールの試合で残り2秒でコートの反対側からロングシュートを決めて奇跡の大逆転を狙うようなもの、というと例えが悪いですが、何の脈絡もない方向へブレることを自ら行っているもので、決定権を持っている人には、案をいくつも提案させる試行錯誤にはリスクがあるということをあの手この手で伝えるようにしています。
実はそれでいい!?夢の話ばかりする社長
実際に経営者のトップと話をさせていただく機会をいただきますが、よく思うのがみなさん驚くほど漠然とした話しかしないです。
まあ当然でして、周囲に夢を語るのが社長の仕事なんですね。この会社がどういうミッションを持っていて、社会にどう貢献をするかという壮大な話を聞かせていただけます。
細かい装飾におけるデザインの希望なんて出ないことがほとんどです。
趣味の話を始める人もいます、場合によってはそれで思わぬ関係を築けたりするかもしれませんが、基本はアイスブレイクとして長引かないようにコントロールするようにしています。
その場で話す内容はこちらも壮大に話をしたらいいと思っています。
難しい話をしようなんて思わなくてよくて、「夢って具体的にどんなことですか?」みたいな。
そう聞いても具体的に出てこないこともあって、だいぶ前にあったのは「あんたたちみたいなワケわかんない人が幸せになれる会社にしたいなあ」なんてびっくりする答えだったり。直接デザインリニューアルとは関係ない、そんな話です。
ワクワクする広い話をするのが楽しそう、どちらかというと広いビジョンを分解してこういうことをしたいんだ、という具体的なイメージに落とすのがデザイナーの仕事のうちのひとつなのかと考えたりします。
で、よく話の中に混ぜ込むのが、企業理念というかポリシーを伺ったりすることです。
聞き終わると「それって社員さんに説明していますか?」をやんわりと聞いたりすることもしばしば。
よくよく聞くとつくってはいるものの、共有まではしていないことがあったり、共有したつもりでも誰も意識していなかったりと様々です。そのあたりで「社員さんが決定できない小さな原因のうちのひとつになっているかもしれないですねえ」と話すことがあります。
まあ、踏み込み過ぎといえばそうだし、大変失礼と思う人もいるかもしれません、プライドの高い人なら怒り出す(!)でしょうし。ただ、それくらいの距離を縮めることができると「任せてもらえないですか?」が言いやすくなる、し、それくらいのことが言えないと任せてはもらえないように思えます。
関係をつくるのは対話からかもしれません。
…とはいえ、いきなり経営者と話ができるわけでもないので、企業担当者さんからご相談を受けたときに、経営側につながるように話を進めることがあります。
チームだけで決めるのが難しいことを早めに話して「弊社の経営側との話が必要ですね」と担当者が思える話の持って行き方です。
デザイナーがそんなことまで…と、思うかもしれませんが、実は一番大切なことだと思います。
サイトリニューアルには企業理念を思い出したり?
特にWebサイトのリニューアルとか企業理念が話題に上がらないこともありますが、それ、そのものという考え方もあるのでは…?
お世話になっている会計士さんにアドバイスいただいた話で、例えばSONYのような大企業は製品も認知度が高いので、企業理念は「人と人とが集う空間でしか経験できない、リアルな体験、すなわちエクスペリエンスです。」というちょっと漠然とした言葉でも良いけど、そうでない企業はもっと具体的な言葉が良いかもしれない、とおっしゃってました。
クライアントのミーティングに参加していると、プロジェクトチーム内で意見が真っ二つに分かれることがあり、時には面白いなと感じることがあります。(とはいえ、こういうケースはとても健全だと思うんです、下むいてスマホばっかり触っている人よりは…)。
一つは非常に奇抜でとんがっている方向性、もう一つは堅実な方向性だとして、、やはりどちらかに決めないとならない場合、カギとなるのが「何を指標にするか」だったりします、航海のコンパスのような、というと抽象的すぎるでしょうか。
その辺りがぶれていると、どういうキャッチコピーでとか、どういうトンマナで、ということすら社員は指標を持てなくなる、イコール決めきれなくなるという事態に陥ります。
社長さんや上司が行うべき仕事は「指標」となる企業理念や経営計画をチームに共有することだと私からお願いすることがあります。
…と、言い切ってしまいましたが、斬新な議論が出て来ることが望まれる場合もありますので、それに限った話ではなくて…
わざと、変化球案のKeynoteをプレゼンすることをだいたい一度はやります。
そういう外からの風を入れることで、みなさん「え?」って顔をして見てますが、会社さんによっては後から感謝されたりするものです。時々こういう変化球ももちろん場を見ますが、楽しいミーティングになると考えています。
経営計画書というのは難しい、でもツルの一声は今必要なのかも
ただ、先ほどちょっと出た経営計画書というのはちょっと難しいなと感じています。
1年先がどうなっているかすら分からない今、自分でも年間事業計画って立てにくいなと感じています。
弊社の場合、今までWebサイトやAndroidアプリやゲームUIなどのデザイン業務ばかりだったのが、今年急にドローンUIの案件などが入ったりして、世の中IoTとかロボティクスとかウェアラブルとか言われていても、まさかそんなに早く自分の会社の業務と関係するかなんて計画できなかったです。
大きな夢を持つのはいいけど、厳密なスケジュールや納期、細か過ぎるデザインフォーマットまで決めすぎると、時代の流れあわせて急ターンしずらく、「思いつきで」とか「気まぐれ」とかネガティブなことを言われるかもしれません。誤解を恐れずにいうと、そういうツルの一声は予測不能な時代には必要なのかもしれません。
そう思って、柔軟なプロジェクトのすすめ方やあり方を模索することも必要で、弊社ではデザインアドバイザーというサービスをやっています。
普通なら「ツルの一声」が出たら制作会社に依頼する都度「納期や料金を検討」させられることになります。その都度高い金額を支払うことでトータルでコストがかかり過ぎるということにもなるので、弊社ではクライアントさんとコミュニケーションを取って「今週はここだけを重点的に」とか「来週はその様子をみて相談したい」という毎週時間を決めて動きのあるプロジェクトを進める方法で、理にかなっているなと感じてきています。
まとめ
経営者など決定権を持つ人とのコンタクトは簡単にはいかないですね。
何が起こるかわからない時代に、計画立てて時間を守る、という考え方では追いつかないことも考えると、ツルの一声を敵視(?)するのではなく、無理が生じない経営側との関係づくりというのも必要かと感じています。その橋渡しのツールとして、というかルーツをたどると企業理念を感じることがデザインにも活きるのでは?と。
これは経営側の理解や努力も大事なことのように思えます。
日頃クライアントのミーティングにファシリテーターとして入ることがありますが、そういうときに気をつけていること、と、今までのまとめがこんなところだと思います。
- デザインは経営理念との接点を考えてみる
- なるべく決定権のある人へのコンタクトを取る話の流れをつくる
- 流れを読む必要があるが、時として変化球も投げてあげる(理念の範囲内で)
- あくまでチームが楽しいと感じるミーティングをつくってあげる
(追記)
昨日、TechFeedというエンジニア向けのキュレーションサービスのアルファ版がローンチされました。弊社はデザインアドバイザーとしてサービス改善のお手伝いをさせていただくことになりました。TechFeedもどうぞよろしくお願いします。
さて…
ちょっとカタい話になりすぎました。
次回はもっと楽しい話題を考えてたいと思います。
毎週更新されるツクロアのデザインラボ、少々個人の強い想いが出るとは思いますが、楽しんでいただけたら幸いに思います。
どうぞよろしくお願いします。