ヘルシンキの書店で5分で選んだけど、ぜったい読む価値のある本2冊
- デザイン
- 本の紹介
ヘルシンキの中心部、アカデミア書店(2階には、映画「かもめ食堂」にも出てきたカフェ・アアルトがあります)で、なにかいいデザイン本ないかな〜と探していたところ、ささっと見て直感でこれだ!と思って買った2冊がけっこうよかったので、紹介します。(フィンランド製ではありませんが。。)
『The Advertising Concept Book』(Pete Barry)
広告デザインを勉強する学生が読むような、まるで教科書のようなものでした。
裏表紙にも
「3年間アートスクールに行く余裕がないなら、この方を試してみて」
と書いてあるとおり。
学生にもプロフェッショナルにもいけます。
コンセプトメイキングは時を超えていて、ちょう大事
できあがりの動画やポスターなどを紹介するような本はたくさんあるが、そういったCMYKで表現したピカピカしたものではなく、その前の段階のコンセプトをすべて hand-drawn(手描き)のスケッチで集めたもの。
アイデアからコンセプトメイキングのところまでにしぼってあります。
「最近のデザイナーは、すぐにPhotoshopに頼ってしまう」という言及が本の中であったのですが、日本でも少し前によく聞いた言葉ですね。
本の中でも、Exerciseとして、こういうものを考えてみよう、という課題がたくさんあります。
たとえば、「テレビや雑誌などなんでもいいので広告のキャッチコピーを見て(できれば広告の年間賞をとったものだとベター)、それを声に出すとしたらどんなトーンがよいかを考え、いくつかの形容詞であらわしてみよう」といった、コンセプトのコアなところをつくものが多いのでおもしろい。
こういうコアなところってデザインをする上でとってもとっても大切だと思ってます。本質。
だからこそこの本があるんだろうけど。
HTML5がではじめたころに、ウィンドウがたくさん出てくる動画?とGoogle Mapsをマッシュアップして、おおおおー!と思っていたもののスケッチも掲載されていました。
The Wilderness Downtown
サイトもまだあった。はげしくなつかしい。
越境し、「考える人」になれ
通常、広告は「アートディレクター(表現部門)」と「コピーライター(言葉部門)」が主となって作られる。
しかし、両方とも壁をつくらず、お互いの領域を越境するべきです、としっかり書かれています。
ロジカルな戦略/クリエイティブな表現、言葉での訴えかけ/視覚的な訴えかけ、実用的/感情的、これらの両方がないと素晴らしい広告とはいえません。
それぞれの専門分野に固執せず、作り手ひとりひとりがフルで考える、そうすれば自然と越境します。
Hard Sell と Soft Sell という考え方
Hard Sell:強くプレッシャーをかけて何かを買うように説得する販売手法
Soft Sell:あまりプレッシャーはかけず、柔らかく何かを買うように説得する販売手法
[引用] HARD SELL/SOFT SELL | 強引な売り込み/穏やかな売り込み
われわれは自然と Soft Sell のほうを選択しているのか、それとも自分の勉強不足なのか、この言葉にあまりなじみがありませんでした。
バナーで考えるとたぶんわかりやすくて。
「つやめく化粧水、30%OFF!今すぐ購入!」
とかはHard Sell。
「カサカサしたお肌、悩んでいませんか?」
といったものがSoft Sell。
Hard Sellは、多くの場合はベーシックな情報が直接的に書かれてあるだけで、コンセプトメイキングにもあまり時間をかけなくてもできちゃいます。しかし、その手法で響くのは一部の顧客層でしかないので、できるだけ「やわらかく」するようにするのがいいようです。
でもこの「やわらかく」するのはすごくむずかしい。
上のExerciseとして紹介した、広告のボイストーンを表現するのと同じようなものですよね。
その商品の訴えたい本質をちゃんと理解しておかないと、それ以上展開することができなくなってしまいます。
そう考えるとHard Sellはかんたんですね、そのまま書けばいいだけだから。
そんな感じの、広告の基礎的なことが書かれてある教科書です。
すべてが鉛筆で描かれているので、デッサン力がほしいなぁ。。と身にしみて思いますね。
『Dear Data』(Giorgia Lupi)
Amazon.co.jp: Dear Data: Giorgia Lupi: 洋書
これは、突然知り合ったふたりのグラフィックデザイナーが、1年間、1週間ずつ(全52週間)ハガキを交換していったという話です。(その後恋におちたとかそういう話ではないですw)
ふたりは昔から自分のことを事細かに記録していったり、データを集めることが大好きだったそうです。
あるアートフェスティバルで出会ったふたりは意気投合しましたが、おたがいニューヨークとロンドンに住み始めたところでした。
カフェやバーで会ってそういった話をするわけではなく、あえてハガキを使って、お互いのデータをインフォグラフィック化して送りあったそうです。なんて素敵なの!
一見するとよくわからないのですが、、
表面に、なんのデータか(毎週ふたりで同じテーマを決めている)、それをどうやって見たらよいかの説明(凡例)が毎週びっしり書かれています。
どういうテーマがあるかというと、
- 時計を見た回数
- ありがとうを言った回数
- 鏡をみた回数
- 買ったもの、個数
- 人と触れた回数
- スマホをみた回数
- 着た服の数
- おもしろいとおもったものの数
- ドアの形
- 聞いた音の数
- 嫉妬の回数
それぞれに関して、カテゴリ分けが無数に存在します。
たとえば、「鏡を見た回数」だと
- 家か外か
- 意識的に見たかそうでないか
- どれくらいの時間見たか
- 見たときに何を思ったか
など、分けていくとキリがないですよね。
これを、自分の基準でカテゴライズし、インフォグラフィック化していきます。
同じテーマですが、いつもふたりの表現方法はまるっきり別物。
もちろんカテゴリ分けもそれぞれです。
個人的には、UI大好きなので、自分が通ったドアの形をすべて集めていくのとかちょう胸がときめきますw
これらには次のような判断力が必要だと思いました。
- どうカテゴライズするか
- 表現する形の選択と候補
- 表現する色の選択と候補
- それらを説明する力
- 図と凡例をみてできるだけ理解しやすいようにする努力
アプリやWebサイトを設計するときも同じことがいえます。
この本は、インフォグラフィックスのインスピレーションにもなるし、ビッグデータのはしりともいえます。あえてアナログでやっているのは、自分の深層心理により向き合うためだ、とも書かれていました。
(このふたりはかなりストイックだと思います。。おそらくほとんどの人は、こういった自分のデータを毎日集めるなんてめんどくさすぎて無理ですw)
インフォグラフィックスというと、もっときれいなものを想像する方も多いと思いますが、こういった日々リアルタイムに変わっていくデータをリアルタイムに反映していくやり方はなかなかないでしょう。
そういった意味でも、52週x2人分、ぜんぶ解読する価値のある本だと思います。
ハガキをやりとりしたおふたりはこちら
- giorgialupi http://giorgialupi.com/
- Stefanie Posavec http://www.stefanieposavec.co.uk/
MoMAとかで展示されていたりするのですね。すごい。
本買わなくてもあるていどここで見れました。
- THE PROJECT — Dear Data http://www.dear-data.com/theproject
本屋でちらっと見たときは、実は精神不安定な人の治療としてこういうのをしていったのかなと思ったのですが(強制的に自分をみつめるために有効そう)、この本ではそういうわけではありませんでした。
しかし、ふたりともそれによって自分に対する再発見を何度もしていますし、自分を客観的に観察できたのだと思います。
まとめ
本質を考える本や、自分と向き合うための本。
そんな本って、日本にはあまりない…?(あったらごめんなさい)
この2冊は、ここから知識を得るわけではなく、そこから自分でいろいろと考えることができるので、えいっと買ったわりにはすごくいい本だなと思い、満足しました。