ソフトウェア学科のエンジニア学生さんが今向き合うデザインとは

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今週は大学のことを。
エンジニアではない僕がソフトウェアのことを語るのは説得力ないが、まあ、同世代のコードを書いている周りの知人と、若い学生さんたちの考えってやはりどこか違うな、と思ったこともあり、そんな大学の授業を通じで感じたこと。

ソフトウェア学科の範囲を考えるイラスト

僕は大学でソフトウェアコースの指導をしてきて今年で3年目、特に僕はエンジニアスキルが高いわけではないが、先生を週に1,2回行っている。
このたった3年の間で、ソフトウェアコースのカリキュラムがとても変わったなあという気がする。
HTML, CSS, JS, レイアウト基礎, ビジュアルデザイン基礎, 画面設計, WebGL GLSL基礎, Node.jsなど、どちらかというと手を動かすだけに偏りがちなので、去年からアイデアワークや数人のチームで開発までやってみるというカリキュラムをつくってみた。
後半、Edison for Arduinoとの連携や3Dプリンタでつくった筐体に埋め込む何かとひとつのカリキュラムに収めた。
一般的に言われている「ソフトウェア」というと違和感を感じられるかもしれないカリキュラムだ。

週1,2回とはいえ、彼ら学生さんも他の講義があって忙しい。そんななかチームで会うのも開発に当てる時間も難しい。
チームで何か作品をつくるにもあまり時間がない中、みんなでやれることとやりたいことを探し成果発表を行っている。

3年前はソフトウェアコースの作品として、画面の中で動くシューティングゲームの類ばかりだった。
ところが今ではPCの画面内だけで完結する課題作品はほぼ皆無で、みんな何らか「画面の外」と連携するWebアプリをつくることを普通だと考えている学生が多いことに気づく。
ArduinoやRaspberry Piなどの小型マイコンが普及している今、「ソフトウェア」という考えが「一部の大人」と若い世代で違いがあり、今後彼らが社会に出たときの大人と若い人たちの「ソフトウェア」に対する考えや向き合い方が変わってくるんだろうか?ということは常識という感覚も違って見えるのでは?と何気に思ったりする。

ソフトウェアコースへの見方や予算取りの変化

もちろん、ソフトウェア分野で専攻する範囲は広い。AIをやりたいという人もいるし、インフラをやりたいという人もいた。コースによって特色があるだろうから何が正しいというわけではない。
ただ、Web技術をベースとしたソフトウェアコースのカリキュラムの中は、何もWebページやWebアプリ単体で完結するだけではなく、もっと人や環境とがつながるところまでをソフトウェアだとして、学校側の教材や教室の備品など予算の取り方も変化しているように見える。
例えばこんなことがあった。ソフトウェアの学生さんがヘッドマウントディスプレイごしにVRやARアプリをつくっていた、Google Cardboardハコスコのようなものが必要なので「予算出ますか?」と学生さんが聞いたところ「レーザーカッターが学校にあるから自分でつくりなさい」と言う先生がいる。
ハコスコくらいの金額だったら買ったほうが断然楽なのだが、もっと新しい機能を自分でつくり出したときに既存の製品では足りなくなる、そこへの対応する手段や解決策を身につけることが大切なのであって、学校側はレーザーカッターや3Dプリンタを導入し工房をつくった、結構な設備費がかかったという。これは今のソフトウェアコースへの環境づくりの一つの形じゃないかと思う。

3Dプリンターなどの写真

カリキュラムも年々変化している

ソフトウェアコースの最初に授業はオモチャづくりだったときの写真

今年のソフトウェアコースの最初の授業はいきなり「JavaScriptで走るサーバー」づくりだった。走るというのは物理的に走行する、という意味だが起動して走らせるという意味もかけている。
Edison for Arduino、タミヤ模型のモーターギアボックスなどがソフトウェアクラスの教材だった。
去年まではHTMLの基礎を書いて画面にWebページを表示することだったが、今年からは「Hello World」ではなく、いきなりオモチャづくりだった。
最後に自分たちがこのコースでどんな取り組みをするのか、最初にイメージしてもらいたかったという理由があって最初の講義がこれになった。

生活や環境にも考えを及ばせる

そういったカリキュラムが常識的になればみんな画面の外の世界に目を向けたくなる。
そうすると「ああ、こうしたほうが優しいかも、ちょっと手に持つには大きい?、こういう状況では使えないよね?」がそれなりに見えてくる。
例えば非常に短い制作時間しかない中、こういう楽器をつくった学生がいた。上下に動かすことで音程を決定し、左右に振ることで音の強弱を付けられる仕組みだった。でもこれだけじゃ技術的にはそんなに難しいことでもなく、人によっては新しさも感じないかもしれない。

ところが…。

ここで些細なことかもしれないが、気の利かせ方に気づいた。
身長の差によって、発音できる音階の幅が制限されるのはあまりよくないことから、彼らは使う人の身長に合わせてちょうどいい高さで基準となる音程に戻せるリセットスイッチを実装した。
これによって、大人から子供にこの楽器が渡されたときに、子供の身長に合わせて遊ぶことができる。
たったこれだけのことだけど、どちらかというとハードウェアやプロダクトのデザインの領域にまで踏み込めはしないものの、ソフトウェア専攻の人もそこに関心が芽生えてきているということに気づく。

エンジニアも広義のデザインに向き合う

こういった関わりを常に意識しているエンジニアさんはデザインに向き合えるチャンスがたくさんあるのでは?なんて思ったりする。
ここでいうデザインとは意匠(見た目的な)という意味ではなく、「最適化する」という意味でのデザインで、いかに作り手の都合を消しつつ人とモノの境界を最適化するか?という課題への向き合い方ができるのでは?
少なくとも4〜5年前ではなかなか実現しにくかったことが、今、教育機関もだんだんと理解を深めてきて、学生がそれを学ぶことができる。
それを経験していない私たち大人の世代が、彼らのような若い別の価値観を持っている人と関わるときに、私たちもそういった視点にちょっとだけでも寄り添っていくとそれはそれで面白いことが起こりそうな気がするし、起こらない気もする。
自分たちがやっていることや、将来何をしたいか、周囲の環境など色々なことが絡んでくるので分からないが、少なくともソフトウェアが画面の中だけのものという考え方もかなり考えものになってきているな、という雑感。

大学を始めとする教育機関において感じることは、技術的に中級レベルへの学習は、もう学生さんは勝手にネットで学んでそこから大きく習得できるし、そこを先生が手とり足とりする必要もあまりなく、「時代にそった道を想像させる」ことを教えられる先生が今後は必要なのかとか、そんなことをやんわりと感じている。

また次回、お会いしましょう。

こんなことを言いつつも、ツクロアではコーダーとデザイナーの募集をしています。

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Akiba Hideki
Akiba Hideki @Hidetaro7
あくまで仕事の中で感じたこと、雑感、正しいかどうかは分からないが、今素直に思うことやチャレンジしたいことを書くためのブログ。デザインと技術について。

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